無機化学は覚える量が多い。だがバラバラに覚えるから多く感じるだけで、
「周期表のどこにいるか」「酸か塩基か」「酸化されるか還元されるか」の3本の幹に掛けていけば、枝は自然に生える。
この本では色・沈殿・気体・製法を、理論化学とつなげた形で並べる。
1 周期表のどこ? 同じ族なら似た性質。左下ほど陽性(金属らしい)、右上ほど陰性。
2 酸か塩基か? 非金属の酸化物は酸性、金属の酸化物は塩基性、Al・Znは両性。弱酸は強酸に追い出される。
3 酸化か還元か? 気体の発生も金属の反応も、半分は酸化還元。イオン化傾向を思い出す。
無機のすべての枝は周期表という幹から出る。族が同じなら性質が似るのは価電子の数が同じだから。 まずこの表の上を指でなぞれるようにする。
第1〜4周期を並べてある。共通テストで問われるのはほぼこの範囲。
同じ縦の列(族)は価電子の数が同じなので、化学的性質が似る。 横に進むと電子が1個ずつ増え、右へ行くほど陰イオンになりたがる。
| 量 | 大きくなる向き | いちばん大きいもの | 理由 |
|---|---|---|---|
| イオン化エネルギー | 右上へ | He(貴ガス) | 閉殻は電子を離したくない |
| 電子親和力 | 右上へ(貴ガス除く) | Cl・F(ハロゲン) | あと1個で閉殻になる |
| 電気陰性度 | 右上へ(貴ガス除く) | F | 小さくて核の引力が強い |
| 原子半径 | 左下へ | Fr・Cs | 電子殻が増え、核の引力が弱まる |
右上(F・O)ほど「電子を欲しがる」、左下(Cs・Ba)ほど「電子を捨てたがる」。 貴ガスだけは満ち足りているので、どちらもしない。この一文で4つとも導ける。
| 典型元素 | 遷移元素 | |
|---|---|---|
| 族の中の性質 | 同族でよく似る | 隣どうし(横)で似る |
| 金属・非金属 | 両方ある | すべて金属 |
| 酸化数 | ほぼ決まっている | 複数とる(Fe²⁺/Fe³⁺、Cu⁺/Cu²⁺) |
| イオンの色 | ふつう無色 | 有色が多い(Cu²⁺青、Fe³⁺黄褐) |
| 錯イオン | つくりにくい | つくりやすい |
| その他 | 密度・融点はさまざま | 密度が大きく融点が高い。触媒になるものが多い |
気体は覚える項目が多いようで、「どうやってつくるか」の型は5つしかない。 型に分けてしまえば、反応式は自分で書ける。捕集法と乾燥剤は水への溶けやすさと酸・塩基だけで決まる。
捕集法は2つの問いで決まる:水に溶けるか? 空気より重いか?
溶けない → 水上置換(純度が高く最優先)。溶けて重い → 下方置換。溶けて軽い → 上方置換(NH₃だけ)。
| 乾燥剤 | 性質 | 使えない気体 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 濃硫酸 | 酸性 | NH₃ | 塩基性の気体と反応してしまう |
| 十酸化四リン P₄O₁₀ | 酸性 | NH₃ | 同上 |
| ソーダ石灰 | 塩基性 | CO₂・SO₂・Cl₂・HCl・H₂S・NO₂ | 酸性の気体と反応してしまう |
| 塩化カルシウム CaCl₂ | 中性 | NH₃(例外) | NH₃と結合してしまう(CaCl₂·8NH₃) |
NH₃だけが塩基性の気体。だから「酸性の乾燥剤(濃硫酸・P₄O₁₀)はNH₃に使えない」。 逆に「塩基性の乾燥剤(ソーダ石灰)は酸性の気体に使えない」。中性のCaCl₂がNH₃に使えないのだけが例外で、ここが狙われる。
17族は上に行くほど酸化力が強く、下に行くほど分子量が大きい(=沸点が高い)。 この2つの向きが逆であることさえ押さえれば、単体の性質は全部並べられる。
| F₂ | Cl₂ | Br₂ | I₂ | |
|---|---|---|---|---|
| 常温の状態 | 気体 | 気体 | 液体 | 固体(昇華する) |
| 色 | 淡黄 | 黄緑 | 赤褐 | 黒紫(蒸気は紫) |
| 水との反応 | 激しく反応しO₂を出す | 一部が反応 | 少し溶ける | ほとんど溶けない (KI水溶液には溶ける) |
| 酸化力 | ← 強い 弱い → | |||
16族。硫黄の話はほとんど硫酸の話になる。 濃硫酸の4つの性質(吸湿・脱水・不揮発・熱いと酸化力)を分けて覚えるのが最短。
吸湿性 → 気体の乾燥剤(ただし塩基性のNH₃には使えない)
脱水作用 → 砂糖(C₁₂H₂₂O₁₁)から H と O を水として奪い、炭が残る
不揮発性 → 揮発性の酸(HCl・HF)を加熱して追い出す製法に使う
熱濃硫酸の酸化力 → 銅を溶かす(Cu + 2H₂SO₄ → CuSO₄ + 2H₂O + SO₂)。希硫酸では銅は溶けない
SO₃を直接水に入れないのは、反応が激しすぎて霧になってしまうため。触媒はV₂O₅(ハーバー法のFe、オストワルト法のPtと区別する)。
15族と14族。窒素は硝酸、ケイ素はガラスとシリカゲルへ話がつながる。 ここも「つくり方」と「どんな物質になるか」の2本立てで押さえる。
| 物質 | 性質 | 要点 |
|---|---|---|
| N₂ | 無色無臭、空気の約78% | 三重結合が強く非常に安定。液体空気の分留で得る |
| NH₃ | 無色・刺激臭・塩基性 | ハーバー・ボッシュ法 N₂+3H₂ ⇄ 2NH₃(触媒 Fe₃O₄、高温高圧) |
| NO | 無色・水に難溶 | 銅+希硝酸。空気に触れるとすぐNO₂になる |
| NO₂ | 赤褐色・水に可溶 | 銅+濃硝酸。水に溶かすと硝酸になる |
| HNO₃ | 強酸・強い酸化力 | 光や熱で分解するので褐色びんに保存。Al・Fe・Niを不動態にする |
1族と2族は電子を捨てたくてしかたない元素。だから単体は反応性が高く、自然界には単体で存在しない。 2族はMgだけが仲間はずれという一点を押さえれば整理できる。
リアカー(Li 赤)無き(Na 黄)K村(K 紫)動力(Cu 青緑)借りようと(Ca 橙赤) するもくれない(Sr 紅)馬力(Ba 黄緑)── 語呂で覚えて、実際の色と結びつける。 Mgは炎色反応を示さないことも狙われる。
| Mg | Ca・Sr・Ba(アルカリ土類金属) | |
|---|---|---|
| 冷水との反応 | 反応しない(熱水とは反応) | 反応して水素を発生 |
| 水酸化物の水への溶解 | 溶けにくい | 溶ける(強塩基) |
| 硫酸塩の水への溶解 | 溶ける | 溶けにくい(BaSO₄は白色沈殿) |
| 炎色反応 | 示さない | 示す(Ca橙赤・Sr紅・Ba黄緑) |
CaCO₃(石灰石・大理石)→ 加熱 → CaO(生石灰・乾燥剤)→ 水を加える → Ca(OH)₂(消石灰、水溶液が石灰水)
石灰水にCO₂ → CaCO₃で白濁 → さらに吹き込むと Ca(HCO₃)₂ になって再び澄む(鍾乳洞ができる原理)
CaSO₄·2H₂O(セッコウ)→ 加熱 → 焼きセッコウ(型取り・ギプス)
ここが無機で最も出題される場所。色と過剰の試薬で溶けるかどうかの2点に絞って整理する。 「沈殿ができた → もっと入れたらどうなる?」が問題のパターン。
| 水酸化物 | 色 | 過剰のNaOH | 過剰のNH₃水 |
|---|---|---|---|
| Al(OH)₃ | 白 | 溶ける [Al(OH)₄]⁻ | 溶けない |
| Zn(OH)₂ | 白 | 溶ける [Zn(OH)₄]²⁻ | 溶ける [Zn(NH₃)₄]²⁺ |
| Cu(OH)₂ | 青白 | 溶けない | 溶ける [Cu(NH₃)₄]²⁺(深青) |
| Fe(OH)₃ | 赤褐 | 溶けない | 溶けない |
| AgCl(塩化物) | 白 | 溶けない | 溶ける [Ag(NH₃)₂]⁺ |
| 錯イオン | 名前 | 配位数 | 形 |
|---|---|---|---|
| [Ag(NH₃)₂]⁺ | ジアンミン銀(I)イオン | 2 | 直線形 |
| [Cu(NH₃)₄]²⁺ | テトラアンミン銅(II)イオン | 4 | 正方形 |
| [Zn(NH₃)₄]²⁺ | テトラアンミン亜鉛(II)イオン | 4 | 正四面体 |
| [Fe(CN)₆]³⁻ | ヘキサシアニド鉄(III)酸イオン | 6 | 正八面体 |
系統分析は「溶けている金属イオンを、順番に1つずつ落としていく」手順。 どの試薬で何が落ちるかを覚えるのではなく、落とす順番を覚えると全部つながる。
| 加える試薬 | 沈殿する主なイオン | 色 |
|---|---|---|
| 塩酸(Cl⁻) | Ag⁺、Pb²⁺ | AgCl 白、PbCl₂ 白(熱水に溶ける) |
| 硫化水素(酸性) | Cu²⁺、Cd²⁺、Pb²⁺、Ag⁺、Sn²⁺ | CuS 黒、CdS 黄、PbS 黒 |
| 硫化水素(中性・塩基性) | Zn²⁺、Fe²⁺、Ni²⁺、Mn²⁺ | ZnS 白、FeS 黒、MnS 淡赤 |
| アンモニア水(少量) | Al³⁺、Fe³⁺、Cr³⁺ | Al(OH)₃ 白、Fe(OH)₃ 赤褐 |
| 硫酸(SO₄²⁻) | Ba²⁺、Ca²⁺、Pb²⁺ | いずれも 白 |
| 炭酸イオン(CO₃²⁻) | Ca²⁺、Ba²⁺ | いずれも 白 |
| クロム酸イオン(CrO₄²⁻) | Ag⁺、Pb²⁺、Ba²⁺ | Ag₂CrO₄ 赤褐、PbCrO₄ 黄、BaCrO₄ 黄 |
H₂S ⇄ 2H⁺ + S²⁻ の電離平衡。酸性ではH⁺が多いので平衡が左に寄り、S²⁻が少ない。 それでも沈殿するのは、溶解度積がとても小さいCuSなど沈みやすいものだけ。 塩基性にするとS²⁻が増えるので、ZnSのような比較的溶けやすいものも沈む。理論化学の平衡そのもの。
上から順に、沈殿をろ過して取り除き、ろ液に次の試薬を加える。 最後まで沈まないのは Na⁺・K⁺・NH₄⁺ で、これらは炎色反応で確かめる。
| 製法 | つくるもの | 触媒 |
|---|---|---|
| ハーバー・ボッシュ法 | アンモニア | Fe₃O₄ |
| オストワルト法 | 硝酸 | Pt |
| 接触法 | 硫酸 | V₂O₅ |
| アンモニアソーダ法 | 炭酸ナトリウム | (触媒なし) |